綾鷹の章

第四話

「綾鷹」ブランドの誕生

新しい緑茶の完成を目指し、試飲サンプルの開発と並行して、ブランド担当、パッケージデザイン担当、技術部門などの関係者により、新しい緑茶飲料のブランド名、パッケージデザインの開発などが着々と進められていました。

新たに羽ばたいた「綾鷹」
新製品の開発準備のなかでも、ブランド名の開発は困難を極めました。「本物の味わい」を目指して開発を進めている、新しい緑茶にふさわしいブランド名は何なのか?
プロジェクトメンバーは様々なアイデアを持ち寄り、検討を重ねたものの、なかなかメンバー全員が納得するブランド名が生まれませんでした。新製品を開発する際はブランド名を決定してからパッケージデザインの開発を行うのが通常でしたが、名前が決まらないために、パッケージデザインとブランド名の開発を同時並行で進めることにしました。
有力なブランド名の案はなかなか浮かばず、プロジェクトメンバーはブランド名開発のヒントを求め、上林春松本店の歴史や現存する資料などをもう一度見直しながら、ブランド名を検討していました。そんな時、メンバーがひとつのエピソードを思い出したのです。それは、第十四代上林春松会長からうかがった、上林春松家の歴史に関するエピソードでした。
『江戸時代末期の幕府崩壊に際し、これまで幕府用の碾茶(てんちゃ:抹茶の原料となるお茶)を作っていた上林春松家が、当時画期的な緑茶の新製品(後の玉露)の一種を開発し、一般市民に向けて販売しました。そのお茶の名前が「綾鷹」でした。』

江戸幕府の崩壊により、幕府を主な顧客としていた宇治の茶師たちが廃業を余儀なくされるなか、第十一代上林春松は、時代の流れをいち早く読み取り、幕府向けの碾茶の生産に固執するのではなく、茶師としてのお茶作りの伝統や技術を活用し、その時代にあった新しいお茶作りに果敢に挑んだのでした。この時、一般の市民向けに製造・販売されたお茶こそが、後の玉露の一種である「綾鷹」だったのです。

また、「綾鷹」という茶銘にも意味がありました。「綾」という文字は貴重で上質な茶葉を織り込んだという意味があり、「鷹」という文字は、古くから力あるもの、高貴な存在の象徴、「貴重な茶葉」という意味を持っています。「綾鷹」という名前には、実は貴重な茶葉を織り込んで作り上げたお茶であるという意味が込められていたのです。

茶師としての格式だけにとらわれることなく、これまで培ってきた伝統や技術を活用し、その時代にあった価値を提供するという上林春松本店の精神を表わしている、この「綾鷹」という名前が、プロジェクトメンバーたちの心を捕らえました。これこそ自分たちが目指している新しい緑茶飲料に相応しい名前ではないか。今、まさに日本のお茶文化の伝統を重んじながらも、現代の人々が手軽に楽しめる本格的な味わいの緑茶を提供したい、というプロジェクトの目的とも合致している。「綾鷹」こそが、新しい緑茶飲料のブランド名にふさわしいのではないか。
そんな思いをメンバーの誰もが心の中に抱いていたとき、メンバーの1人から「綾鷹」でいこう、という提案があったのでした。プロジェクトメンバー誰もが、唯一無二であり、新しい緑茶飲料に最もふさわしい名前としてこのブランド名に賛同し、新しい緑茶飲料のブランド名は「綾鷹」に決定しました。

急須でいれたような本格的な味わいを伝える
パッケージデザイン
現代の人々が手軽に楽しめる、急須でいれたような本格的な味わいの緑茶であることを伝達するために、パッケージデザインやボトルもこだわりを持って開発を行いました。
そのコンセプトは「モダンジャパン」。
新しい緑茶飲料が表現すべき「モダンジャパン」とはどのようなものであるべきなのか。人によってイメージするものも異なるため、プロジェクトメンバーのイメージのすりあわせを行うことが必要であり、様々な方向性が検討されました。自分たちの進むべきイメージを求め、ここでもまた、プロジェクトメンバーたちの苦悩が続きました。

左:上林家の家紋
右:2007年のパッケージに用いられた家紋風のイラスト


左:上林家にいまも残る茶壷
右:2007年のパッケージに用いられた茶壷のイラスト
「綾鷹」のモダンジャパンを表現するパッケージデザイン案を開発しては修正を行う、そんな作業を何度も何度も行い、開発したパッケージデザインアイデアは全部で100を超えるものとなりました。オーソドックスなタイプのものから海外から見たモダンジャパンのイメージを表現したものなど、様々なデザインが提案され、デザインの絞込みが行われていきました。そして、何度目かの修正案の提案の中に、ようやくチームメンバー全員が「これだ」と思うデザインを見つけました。

そのデザインは、お茶を入れる茶筒をモチーフとしたもので、最小限のデザイン要素で構成された、シンプルなデザインでした。抹茶のような緑色に上質な金色を巧みに配した、和の伝統の縞柄をモダンにアレンジしたデザインで、メンバーたちがイメージしていたモダンジャパンを表現していました。
左:2007年のボトルのモチーフとなった切り子グラス
右:2007年の発売時のパッケージデザイン
それまでの緑茶飲料は、緑色をベースにしたパッケージが主流でしたが、今までのお茶にはない「緑色と金色」を基調としたモダンな縞柄のデザインで進めることに決定し、上質感や味わいを表現するために、その色合いのバランスの調整に徹底的にこだわりました。つや消しの緑色と華やかな金色の色合いは相反するもので、それぞれのバランスを見ながら調整し、既存の緑茶製品にはない際立ったデザインに仕上げるのに長い時間が割かれました。
また、「綾鷹」の監修を行っている上林春松家の家紋からヒントを得た、茶葉がお湯のなかで舞う様子を表した家紋風のイラスト、御茶壷道中を取り仕切っていたというエピソードに基づいた茶壷のイラストを配置し、デザインが完成しました。

この本格的で上質なモダンジャパンのイメージをさらに強化するために、綾鷹のために特別にデザインした「切り子ボトル」を採用しました。この切り子ボトルは、和の伝統的なモチーフである「切り子グラス」からヒントを得たもので、綾鷹の特長である「にごり」を印象的に見せることも考えられたボトルでした。

「綾鷹」のパッケージデザインが完成するまでには、コカ・コーラ社の通常デザイン開発に要する時間の3〜4倍の時間が費やされました。 新しい緑茶飲料づくりに挑戦するという開発担当者たちの熱い想いは、「綾鷹」というゴールに向かって、一歩一歩着実に前進していたのでした。

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