綾鷹の章

第三話

「本物の味わいの緑茶飲料」を目指して

「にごり」にこだわる
コカ・コーラ社の緑茶飲料の研究開発部門は、「本物の味わいの緑茶飲料」を新たに生み出すための開発に着手していました。
開発に際し、企画担当者からは、「自分たちが日ごろから親しんでいる急須でいれたような味わいの緑茶ができないだろうか。とにかく味わいにこだわった緑茶飲料を開発してほしい」という要望が伝えられていました。
「急須でいれたような緑茶」とはどのような緑茶であるべきか…?しかし、その時、開発担当者の頭の中には、すでに明確なひとつのアイデアがありました。
それは、「にごり」のある緑茶飲料でした。
PETボトルの登場以来、緑茶飲料は製品の安定性を考慮して、急須でいれた緑茶にはある「にごり」を取り除いた透明な液色の製品が製造されてきました。
しかし、PETボトル入りの緑茶から取り除かれている「にごり」にこそ、緑茶本来のおいしさがある、あの「にごり」を何とかPETボトル入りの緑茶で再現できないだろうか、と開発担当者は考えたのでした。
20年間温めていた想い
新しい緑茶の開発に携わっていたのは、20年間、緑茶飲料開発一筋のベテラン開発者でした。その製品開発担当者がずっと温めていたアイデアの緑茶飲料、それが、まさに「にごり」のある緑茶飲料だったのです。
一般的にPETボトルの緑茶は、茶葉から抽出したお茶のにごりを取り除き、透明な液色にする工程を経て製造されています。しかし、液色を透明にすることと、お茶の旨味を残すことは相反することであり、急須でいれた緑茶のようなふくよかな旨味を残しながら、透明な緑茶飲料をつくりだすのは、技術開発的にとてもハードルの高いことだったのでした。
この開発担当者は、当時、ちょうど定年を翌年に控えたタイミングでもあり、研究開発者最後の仕事として、また自分の緑茶作りの集大成として、緑茶本来の「にごり」を持ち、味わいにとことんこだわった緑茶づくりに挑戦してみようと決心したのでした。
試作品開発の過程において、透明な液色も含め、様々な「にごり」のバリエーション、旨味、渋味、甘みのバランスの異なるものなど、最終的に100を超える試作品が開発されました。
自分たちの目指す本物の緑茶飲料の味わいを模索しながら、企画部門と研究開発部門のプロジェクトメンバーによる試飲と改良が繰り返されました。そして、何度かの試飲会を経て、ようやくプロジェクトメンバーが目指す味わいが見えてきたのでした。
上林春松本店、上林社長に試飲してもらう
上林社長に試作品が完成したことを伝え、面談の時間を取り付け、プロジェクトメンバーは試作品を携えて京都に向かいました。
それは、創業450年、日本のお茶文化を支え続けてきた宇治の老舗茶舗の代表に、初めて試飲してもらうためでした。果たして、自分たちのつくった味わいは上林社長に受け入れられるのだろうか、プロジェクトメンバーは緊張と不安が入り混じった複雑な心境でした。
そのような思いの中、いくつかの特徴の異なる有力候補の試作品を上林社長に試してもらいました。

液色、香り、苦み、渋み、甘み、喉越しなど、室町時代から幕府などに納めるお茶を作り続けてきた茶師の血を受け継ぐ者としての貴重な意見をいただきます。じっくり確かめながら試作品を吟味する上林社長の意見を聞き、PETボトルで本物の緑茶をつくるという挑戦はそう簡単に実現できるものではない、と痛感したプロジェクトメンバーたちでした。
それから、上林社長の意見を参考に、本物の緑茶の味わいを目指す試作品の改良の試飲会が行われる日々が続きました。その間数カ月を要して、ようやくプロジェクトメンバー全員が納得する味わいが完成しました。
何度かの試飲会を経た後、コカ・コーラ社の研究開発所で行われたある試飲会でのこと、張り詰めた緊張感の中、上林社長の試飲が進行します。まずは、香りと液色を確かめながらゆっくりと試作品を口に含み、舌でその味わいを吟味した上林社長は、厳しい表情からしだいに柔和な表情へと変わりました。微笑みを浮かべ、「美味しいですね。」と、ひと言。
プロジェクトメンバー一同の顔に苦労が報われた安堵と、達成感の表情が浮かびました。
こうして、コカ・コーラ社研究開発部門、企画部門、上林社長の三者での何度かの試飲を経て、「急須でいれたようなにごりのある」本格的な味わいの緑茶が誕生したのでした。
しかし、透明の液色が主流の緑茶飲料の中で、この「にごり」のある緑茶飲料を、どのように商業ラインに乗せて製品化するのか、次なる試練がプロジェクトメンバーを待ち受けていました。
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