綾鷹の章

最終話

「綾鷹」誕生への最後の関門

困難を極めた「にごり」の実現
さまざまなチャレンジに立ち向かい、難題を解決し、新しい緑茶の味わい、ブランド名、ボトル、パッケージデザインといった製品を構成する要素がようやく決定し、次なるステップは、この製品を全国のコカ・コーラボトラー社の工場で製造できるようにすることでした。綾鷹の開発は、常に新しい課題の連続でしたが、もっとも困難を極めたのが、今までの緑茶飲料では取り除かれていた「にごり」を実際の製造現場でコントロールし、一本一本の製品できちんと再現できるようにしながら、従来の製品と同様に大量生産できるようにすることでした。
綾鷹の開発当時は、製品の製造効率と品質管理の観点から、緑茶飲料はいかに不純物を取り除き透明な液体の製品を製造するかということが重視されていました。また、消費者もPETボトル入りの緑茶といえば透明なもの、という認識が定着していました。そんな中、綾鷹は、急須でいれた緑茶にはあるけれども、PETボトル入りの緑茶からは取り除かれていた「にごり」を再現しようとしていたのでした。
大量生産においては、より透明な液体の製品を製造するという技術には長けていましたが、緑茶にあるにごりを再現するというのは、従来の清涼飲料水の製造においては前代未聞のことでした。研究開発部門とブランドの担当者が、製造技術担当者にこの新製品の開発の話を持ち込むと、担当者は難色を示し、返ってきたのは「にごりのある製品を商業ラインで安定的に製造するのは、オリンピックに出場するより難しい」という言葉でした。

研究開発担当から最初に提案されたのは、濃いにごりのある製品でした。しかし、濃いにごりがあると、製造工程上の加熱殺菌の工程で焦げつきが生じてしまいます。その焦げつきを取り除くためには、製造を止めて洗浄を行わなければならないため、生産効率を低下してしまう可能性がありました。本格的な味わいとにごりをできる限り忠実に再現したいという研究開発担当者と、効率的に安定した品質の製品を製造したいという製造技術担当者との間でせめぎ合いがあり、なかなか折り合いのつかない日々が続きました。しかし、これまでに実現したことのない新しい緑茶を作りたい、という両者の想いは一致していました。どのようにすれば効率的に安定した品質の製品を提供できるか、両者でアイデアを出し合い解決策を模索する日々が続きました。
またこの難題に対し、製造技術担当者が協力を惜しまなかったのにはもうひとつ理由がありました。製造技術担当者たちもコカ・コーラ社一筋のメンバーであり、研究開発の担当者をよく知っていました。綾鷹はこの研究開発担当者が二十年以上にわたり温めていたアイデアであり、コカ・コーラ社における最後の集大成として開発していたのでした。「急須でいれたお茶の味わいに近いPETボトル入り緑茶飲料で作りたい」という開発担当者の真摯な想いと熱意を身をもって感じた製造技術の担当者たちは、これまで一緒に苦労をともにしてものづくりを行ってきた仲間として、この「綾鷹」で有終の美を飾ってほしい、飾らせてあげたい、、、、という想いがあったのでした。

最後にして最大の難関を乗り越える
「にごり」のある緑茶を実際の工場で問題なく製造する、というのは簡単そうに聞こえますが、本当に難易度の高いものでした。製造技術担当者と研究開発のお茶カテゴリーを担当する若い研究員から経験豊富なベテラン研究員までが総動員で、連日、製造テストを行いました。通常の透明の液体とは異なり、にごりと旨みのもととなるお茶の固形分を含んだ液体を、生産効率を下げることなく、焦げ付きや目詰まりなく殺菌を行い、PETボトルに詰めることがほんとうに可能なのか。日本全国にあるコカ・コーラボトラー社のどの工場の生産ラインでも均一の品質の製品が製造できるのか。研究開発部門と製造技術部門のプロジェクトメンバー全員が、交代で仮眠を取りながらテスト製造に立ち会いました。

ようやくテスト製造が無事に終了すると、今度は全国にあるコカ・コーラボトラー社の実際の製造工場で検証が始まりました。各工場の責任者も、前代未聞の「にごり」のある緑茶の提案に最初は戸惑い、製造技術担当者の提案した製造の工程について、細かな指摘や質問を多数投げかけました。しかし、これは「にごり」のあるお茶の製造が無理だ、とういう指摘や質問ではなく、こういった難易度の高いチャレンジを成功させるためには、どんな点をクリアしなければならないかというチェックポイントを示唆する質問や指摘の数々でした。現場を知り尽くした経験豊富な技術者ならではの指摘や質問の数々に、製造技術担当者たちは勇気づけられ、この難題と向かい合うことできました。また、その指摘や質問ひとつひとつに真摯に向き合い対応した結果、製造から品質管理に携わる全ての担当者が一丸となって、このにごりのある「綾鷹」の本格製造に向けて、動き始めたのでした。そして、技術担当者と研究開発部門の担当者たちは、各工場から寄せられたチェックポイントの一覧表を作成し、日本全国にあるコカ・コーラボトラー社の製造ラインを訪問しました。チェックリストをもとに、製造の検証を行い、本製造にこぎつけることができたのでした。

にごりのある本格的な味わいの「綾鷹」、完成。
数々の困難を克服し、ようやく商品としての綾鷹の製造がスタートしました。製造に立ち会った上林社長は、「綾鷹がPETボトルに充填されるまでの製造プロセスは、手間ひまかけて、急須でお茶をいれる工程に似ている」と話していました。

そして、2007年の10月、ついにPETボトル入りのにごりのある本格的な味わいの「綾鷹」が発売されました。
「急須でいれたような本格的な味わいの緑茶を作りたい」というブランド担当、研究開発担当、技術担当、パッケージデザイン担当などプロジェクトメンバー一人一人の想いがようやく実を結びました。
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