お茶の章

第五話

現代に伝わる、日本のお茶文化

左:緑茶の茶葉 中:烏龍茶の茶葉 右:紅茶の茶葉
ひとつの樹から作られるさまざまなお茶
緑茶、烏龍茶、紅茶など、お茶にはさまざまな種類がありますが、実はこれらは、同じお茶の樹の葉から作られています。その樹は、学名を「カメリア・シネンシス」といい、ツバキ科ツバキ属に分類される永年性常緑種です。同じ樹の葉から作られるにもかかわらず、色や味、香りの異なるさまざまなお茶ができる理由は、摘み取った生葉の最初の処理方法の違いにあります。お茶の生葉は酵素を含んでおり、酵素を働かせることを「発酵」といいます。その発酵を止める熱処理をどの段階で行うかによって、お茶の種類は大きく4種類に分けられます。
  • 「不発酵茶」…緑茶など
    生葉をできるだけ早く加熱し、酵素の働きを止めたお茶です。早い時期に加熱するため、摘み取った茶葉と同じような美しい緑色のお茶になります。

  • 「発酵茶」…紅茶など
    酵素を最大限に働かせてから、加熱して酵素の働きを止めたお茶です。

  • 「半発酵茶」…烏龍茶など
    少しだけ酵素を働かせた後に、加熱して酵素の働きを止めたお茶です。酵素の反応による、独特の色や香りが特徴です。

  • 「後発酵茶」…プーアル茶など
    加熱して酵素の働きを止めた後、微生物によってさらに発酵を施すお茶です。黒い色と独特の香りが特徴です。

上:露天栽培の様子
下:覆下栽培の様子
緑茶の栽培方法
このように、同じ樹から摘み取った茶葉でも、熱処理を行う段階によってさまざまなお茶ができます。その中でも、私たち日本人にとってもっとも馴染み深いお茶は、緑茶です。緑茶に使用する茶葉は、「露天(ろてん)栽培」または「覆下(おおいした)栽培」のいずれかの栽培方法によって栽培されています。「露天栽培」とは、芽が出てから摘み取るまで日光の下で育てる栽培方法で、この栽培方法によって育てられた茶葉は主に煎茶や番茶などに使用されます。「露天栽培」の茶葉は、摘み取られる時期によって味わいが異なります。5月上旬頃に摘み取る、若く柔らかい茶葉は一番茶と呼ばれ、旨味のもとであるアミノ酸類が多く、苦味や渋味の少ない香り高いお茶になります。一番茶の後に摘まれる茶葉は二番茶、三番茶と呼ばれ、カテキンを多く含んだ、しっかりと渋味のある味わいのお茶になります。

もうひとつの栽培方法は、「覆下栽培」です。これは、生育の途中で、茶樹を藁(わら)束や莚(むしろ)などで覆い、日光を遮って栽培する方法です。日光を遮ることによって、苦味や渋味のもととなるカテキン類の増加を抑え、旨味成分であるテアニンを多く含む、まろやかで甘味のある茶葉に育ちます。また、「覆い香(おおいか)」と呼ばれるふくよかな香りも、「覆下栽培」で作られた茶葉の特徴といえます。玉露や抹茶は、この「覆下栽培」で育てられた茶葉を用いて作られています。

煎茶の製造工程
摘み取られた茶葉は、さまざまな工程を経て製品に仕上げられます。製茶の工程は、摘み取った茶葉からお茶の原料となる荒茶を作る「一次加工」と、それを茶師や茶問屋などが仕入れて最終的な製品に仕上げる「仕上げ加工」があります。現在は、ほとんどの製茶工程は機械で行われていますが、もともとお茶作りは手作業で行われていました。ここでは、煎茶の伝統的な手揉み製法による製造工程の一例を、ご紹介いたします。
荒茶ができるまで
お茶の原料である荒茶を作る「一次加工」の工程は、通常、生産農家によって行われます。摘み取られた生葉は、放置しておくとすぐに発酵が始まってしまうため、湿度の高い空気を送って、鮮度を維持します。その後、次のような工程を経て、お茶の原料である荒茶に加工しています。
  • 1「蒸し」
    茶葉に含まれる酵素の働きを止める為に、強い蒸気で蒸します。

  • 2「回転揉み」
    蒸した葉を振るい水分を蒸発させた後、茶葉をひとまとめにして前後左右に回転させ、水分を揉み出します。

  • 3「中上げ」
    回転揉みでできた塊を解き、茶葉を籠などに広げて冷まします。

  • 4「仕上げ揉み」
    茶葉をすり合わせたり、握りしめたりしながら揉んで形を整え、光沢のある茶葉に仕上げていきます。

  • 5「乾燥」
    茶葉を薄く広げて乾かします。これらの工程を経て、お茶の原材料である「荒茶」が完成します。

お茶の味わいを決める「合組(ごうぐみ)」
茶師や茶問屋は、このように仕上げられたお茶の原料となる「荒茶」を仕入れ、仕上げの作業を行い、お茶を製品として完成させます。仕上げの作業の中でも、最終的なお茶の味わいを左右する重要な作業が、「火入れ」と「合組(ごうぐみ)」です。
「火入れ」とは、仕入れた荒茶に適切な温度で熱を加えて、荒茶の風味を最大限に引き出す作業です。同じ茶葉でも、わずかな温度の差で風味が変わってしまうため、火加減を慎重に見ながら、それぞれの茶葉の特徴に合わせて丁寧に火を入れていきます。
左:茶師が用いる道具の一例
右:茶葉の合組作業
火入れが終わった後、最終の仕上げ工程である「合組」を行います。「合組」とは、さまざまな茶葉の特徴をうまく生かしながら組み合わせることで、品質や味、香り、色などを整え、美味しい緑茶に仕上げる大切な工程です。この作業によってお茶の最終的な味わいが決まるため、お茶作りの仕上げの工程の中では非常に重要な工程であるといえます。茶師たちが「合組」を行う場合、茶師たちは、磨き抜かれた技と長年の経験をもとに、茶葉が持つ個性を見極め、組み合わせることで、それぞれの茶葉が本来持っている以上の良さを引き出します。茶師たちは、「拝見場(はいけんば)」と呼ばれる黒い壁のある部屋で様々な茶葉を吟味しています。「拝見場」は、茶葉の色味を正確に見極めるため、直射日光が入らない建物の北側に設けられ、天井の採光窓から自然光をとる構造になっています。茶師たちは、「拝見盆(はいけんぼん)」という黒い皿に入れた何種類もの茶葉を並べ、それぞれの茶葉の形や香りを吟味し、抽出した水色を確かめて、自身の持つすべての感覚を使って茶葉を見極めます。そうして見極められた茶葉を絶妙な配分で組み合わせ、製品としてのお茶が完成するのです。私たちが日々楽しんでいる煎茶は、伝統ある茶師たちの技によって生まれているのです。
抹茶の製造工程
続いて、煎茶と同じく、長年日本人に愛されてきた抹茶の製造工程の一例をご紹介いたします。抹茶は、「覆下(おおいした)栽培」で育てられた茶葉を使って作られます。まず、摘み取った茶葉を揉まずに乾燥し、抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)を作ります。それを石臼で挽いたものが抹茶となります。
抹茶の原料となる碾茶
碾茶(てんちゃ)ができるまで
  • 1「蒸熱(じょうねつ)」
    摘み取られた碾茶の生葉は、篩い(ふるい)にかけて選別した後、多量の蒸気で短時間蒸します。蒸す時間を短くすることで、茶葉の緑色が濃くなり、覆下栽培の茶葉に特有の「覆い香(おおいか)」が引き立ちます。

  • 2「冷却散茶(れいきゃくさんちゃ)」
    蒸した茶葉を冷やしながら葉の表面の水分を飛ばします。

  • 3「荒乾燥(あらかんそう)・本乾燥(ほんかんそう)」
    煎茶と異なり、揉まずにそのまま乾燥させます。この乾燥の工程を経て、荒茶が完成します。

  • 4「仕立て」
    出来上がった荒茶の硬い葉や茎などを取り除き、一定の大きさに揃えます。その後、低い温度で時間をかけて乾燥します。この工程を終えて、抹茶の原料となる「碾茶」が出来上がります。

抹茶ができるまで
仕立ての作業が終了した碾茶(てんちゃ)を石臼で挽いたものが、抹茶です。昔は、碾茶を茶壷に入れて保管し、使用する分だけを手挽き用の石臼で挽いて抹茶にしていましたが、現在は、電動石臼が使用されることが多いようです。仕立てが終了した碾茶を、電動石臼で少しずつ挽いて抹茶に仕上げます。石臼を早く回すと抹茶の粒子が粗くなり、風味が損なわれてしまうため、一定の速さで少しずつ、途切れることなくゆっくりと丁寧に挽きます。そうすることで、美しい色を持つ、風味豊かな味わいの抹茶が出来上がるのです。また、抹茶は非常に乾燥しやすいため、抹茶挽き場の湿度や温度は、常に厳しく管理されています。このように抹茶の製造は、非常に繊細で、手間隙のかかるものです。
上:碾茶を石臼で抹茶に挽いているところ
下:碾茶を石臼で挽いた後の抹茶
お茶の種類と味わいの特徴
「煎茶」
緑がかった金色透明の水色が特徴で、茶葉は深く美しい緑色をしています。渋みの中にほんのり甘味が残る優しい味わいと爽やかな香りが愉しめます。

「深蒸し茶」
一般的な煎茶よりも2〜3倍ほど蒸す時間を長くして作られるお茶です。一般的な煎茶の蒸し時間が40秒から1分程度であるのに対して、深蒸し茶は1.5〜2分程度、じっくり蒸します。蒸す時間を長くすることによって、渋味の少ない濃厚な味わいが楽しめます。日本各地で生産されていますが、特に静岡県で多く生産されています。

「番茶」
茶樹の新芽を摘んだものを一番茶、2番目に摘んだものを二番茶と言いますが、その収穫期の間や、二番茶の後に摘んだ茶葉を使用して作られたお茶が、「番茶」です。さっぱりとした苦味の少ない味わいで、子供からお年寄りまで楽しめるお茶です。

「玉露」
「覆下(おおいした)栽培」で育てられた茶葉の新芽だけを使って作る最上級のお茶で、目にも鮮やかな緑色の水色が特徴です。独特のとろりとした飲み口と甘味、深い風味を楽しむことができます。玉露をいれる際は、ぬるめのお湯を使用し、小ぶりの急須で少量ずつ、最後の一滴まで注ぎ切ります。

「抹茶」
玉露と同じ「覆下栽培」で育てた茶葉から作る碾茶(てんちゃ)を、石臼でじっくりと時間をかけて挽いて作ります。煎茶や玉露などの他のお茶と異なり、製造工程で茶葉を揉まずにそのまま乾燥させます。芳醇な香りとコクのある味わいが特徴で、茶道はもちろん、和菓子や料理などにも使われます。

【参考文献】
『茶大百科I 歴史・文化/品質・機能性/品種/製茶』(2008年発行/農山漁村文化協会)
『緑茶の事典』(日本茶業中央会 監修・改訂3版 2005年発行/年発行/柴田書店)
『日本茶のすべてがわかる本 日本茶検定公式テキスト』(日本茶検定委員会 監修・ 2009年発行/農山漁村文化協会)

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